★官能小説家・道中ヘルベチカさんによる連載がスタート!
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★登場人物
ミカ(31)
福岡在住の専業主婦。夫とはセックスレスで、寂しい日々を埋めるため、偽名でSNSアカウントを開設する。
シンジ(31)
東京在住の自称「俳優」。SNSでミカを知り、メッセンジャーアプリを使ってバーチャルな「出逢い」を果たす。
ミカの夫(35)
サラリーマン。毎晩仕事仲間と飲んだり、友達とカラオケに行ったりで帰りが遅い。
★第1話はコチラ
★第2話はコチラ
★第3話はコチラ
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「ミカって、福岡なのにぜんぜん訛ってないよな」
シンジと“出逢って”四ヶ月くらいになるだろうか。
もう、1年以上も付き合っている気がする。相変わらず、お互い顔を合わせることもない。
「だって、もともと東京出身だもん。旦那だってそう。転勤になって、こっちに来たの。結婚を決めたのも、転勤がきっかけだったな」
写真すら交換せず、ミカのSNSのアイコンは適当なフリー素材の果物で、シンジはアニメキャラクターのイラストだ。
「へぇ、そうか。一緒についていく決心ができるくらい、いい人だったんだね」
「あ、う……うん」
「もし先に俺と出逢ってたら、まだ結婚もしないで、東京にいたかな?」
「わからないよ……と言うか、シンジにも彼女いるんでしょ。付き合って、けっこう長いって言ってなかったっけ……」
「俺の彼女のことはどうでもいい」
「どうでもよくないよ……っていうか、そっちはどうなの。仲良くやれてる?」
「そんなこと聴くな。今は俺たち二人の時間のはずだ。旦那とか、俺の彼女とか、現実の話はやめよう。ヴァーチャルに戻れ。俺はいま、ミカと付き合ってる」
「う、うん……ごめん」
いつものような他愛のない会話をしているつもりでも、どことなく相手のセリフにトゲを感じる。
「倦怠期」。
一瞬、そんな言葉が脳裏に浮かんだ。
彼が言うようなヴァーチャルな恋人関係は、いつまで続けられるのか。
ずっと現実から目を逸らし、お互いが寂しいときの隙間を埋めるように付き合い続けるのは、果たして正しいのか。
いや、正しい正しくないの話をすれば、そもそも偽名でSNSに登録したこと自体、どうだろう。
そこで恋人探しのようなことを始めたのがすでに誤りだ。
いまさら何が正しいか考えること自体、馬鹿げている。
ただ、間違った行為にはやがて罰がくだる。
この関係がミカの夫にバレるか、シンジの彼女にバレるか、そのとき二人は終わるだろう。
そのことに怯えながら、これからも続けられるだろうか――。
「ねぇ、今日はもうやめにしない?ちょっと最近、体調がよくなくて」
何やらお腹が痛い。
余計なことを考えすぎ、ストレスを抱えてしまったせいか。
ただ、それだけという気もしない。
痛みはもう一週間ほど続いている。
時刻は夜11時。
夫も遅くなると言っていたが、そろそろ帰ってきそうだ。
「お、どうした?ひょっとしてセイリ?」
「やだ、もう……」
恥ずかしいからやめて、そう言いかけ、ふと気づく。
生理とは違う痛みだが、最後にきてからどれくらい経つだろうか。
一ヶ月はとうに過ぎ、さすがにもうこないとおかしい。
ひょっとして……。
「デキちゃったのかも」
つい声に出す。
「は?デキたって、まさか……デキたってこと?」
シンジも驚いたのか、同じ言葉を2度繰り返す。
「いや、ありえないけど……だって、夫ともしてないのに……」
「俺とは、してるじゃん」
「でも、あれは……」
ヴァーチャルなはずだ。
実際には何もやっていない。
二人、メッセンジャーアプリで声をかけあいながら、自慰行為にふけっていただけだ。
それなのに……。
「……わかったよ、ミカ。そういうことか。ごめん、察しが悪くて。俺、うれしいよ……」
急にシンジの声色が優しくなる。
何を察したのか、きっとミカが空想世界へ入ったのだと思ったのだろう。
つまり、「妊娠を演じている」のだと。
「ミカ……お腹、触らせて……ああ、感じる……ここに、俺たちの命が入ってるんだね……」
「いや、そ、そうじゃなくて……」
否定したが、シンジがミカのお腹に手を当てている様子を思い浮かべたら、それも悪くない気がしてしまった。
お腹の痛みも、何だか愛しいものに思えてしまう。
「そうじゃなくて、なに……そうか、先にキスしてほしかった……?」
「う、うん……そう……して、キス……」
ちゅっ。
本当に唇を重ねているように、音が聞こえる。
ドキドキ、胸が高鳴っている。
またシンジとエッチなことができる、それを望んでしまっている自分がいる。
もう、服を着ていることすら煩わしい。
「ミカ……ああ、すきだよ、ミカ……でも、どうしよう……こんなときにしちゃうのは、やっぱりマズいかな……」
「ううん、そんなことない……お願い、して……」
ヴァーチャルだから。
なんて都合がいいんだろう。
何もかもフィクションだ。
だからこそ、心地がよかった。
夫がいるのに、後ろめたさもなく続けてこられた。
何度でも交われる。
「わかった、ミカ……いっぱい、愛し合おう……」
ちゅっ、ちゅぱっ。
幾度もキスの音を鳴らしながら、ミカはワイシャツのボタンを外していく。
(第5話へつづく)
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